蚊が鳴くように
カメさんがうつだと診断されてから。
特に落ち込んでいる時には声がとても小さくなるようだ。
それはそれは、蚊の鳴くようなか細い声で話す。
もはや話すというよりも、自分の心の声が漏れてしまったかのような、独り言のような調子である。
でも、発し終わったあと、私が返事をしないと、こちらをじっと見てくる、という具合だ。
何度も「え?」と問い返すわたしに、カメさんはビビり、萎縮し、自分の甲羅の中に頭を引っ込めてしまう。
こうなってしまうと本当にカメさんだ。
カメさんが完全無敵に元気だった頃、声が非常に小さい共通の友達のことが話題にあがり、「Aくんは声が小さいと思ってたけど、そう感じてたのは自分だけじゃないんだねー」という話になったことがあった。
それくらいには、カメさんの耳は正常であるはずだった。
私がうつ経験者(なう)であるから、とかカメさんには関係ないのである。
一定の時間、例えば私が働いている間の10時間くらいがたってしまうと、カメさんは完全に孤立するようだった。
自分だけがこの世界の住人であり、ほかの一切のひとは宇宙人なのである。
非常に警戒する。
甲羅の内側から外界を覗き見るカメさんになるのである。